世界にコンピュータは数台でいい説にまつわるあれこれ

「世界にコンピュータは数台でいい説」とは

コンピュータの黎明期からおそらくはかなりの将来,ことによると人類が本格的に太陽系に広がる (相対論による通信速度の壁がたちはだかる) まで,幾度となくくりかえされ,今後もくりかえされるであろうと思われる,世界にはごく少数のコンピュータがあれば十分,とする説について調べてみようと思う.

Thomas John Watson ジュニアによる 5 台説

「恐らく世界中のコンピュータ市場の規模は、5台だろう。」
--- トーマス・ワトソン、IBM会長、1943

マイクロソフト・ジョークス/先見の迷惑より

原文としては "I think there is a world market for maybe five computers," で,広く伝えられている「迷言」であるが,初出は不明であり,Wikipedia では [wikipedia:en:Thomas J. Watson#Famous misquote] misquote と解説されている.

ウェブで読める日本語で解説したものとしては 永井孝尚のMM21 > トーマス・ワトソンが「コンピュータの世界需要は5台」と言ったのは都市伝説? : ITmedia オルタナティブ・ブログ など.

技術史的観点から見ると,1943 年というのはエイケンの Mark I 完成よりも前で,IBM にコンピュータの「市場」という概念があったかどうかを疑わせる時代である.むろん一方で信じさせる要素としては、IBM がその Mark I の建造者でもあるというところであろうか.

Grosch's law

Grosch's law (グロッシュの法則) とは,1965 年に提唱された経験則で,日本語で要約された表現では「コンピュータの性能は価格の2乗に比例する」というもの.詳細や議論は Wikipedia が詳しい [wikipedia:en:Grosch's_law]

いわゆる第2世代,すなわちディスクリートのトランジスタでコンピュータが「建造」されていた時代のものであり,LSI 技術が発展し,また巨大な市場を背景に量産効果による低価格化のスパイラルのある今日では,ほとんどの分野で成り立たない.

牧野 (スーパーコンピューティングの将来 28. パソコンとスパコン、その2 (2006/8/9)) は,

ところが、実はスーパーコンピューターという言葉を定着させた Cray-1 の出現後、この法則は成り立たなくなりました。もうちょっと正確にいうと、パイプライン化してクロック毎に1とか2演算できる計算機がある値段で構成できるようになると、グロシュの法則はそれよりも安い計算機では成り立つけれど高い計算機では成り立たたなくなります。クロック毎に2演算よりも性能を上げるには、乗算器や加算器を複数使わないといけないのですが、そのためには演算器以外の余計な回路が普通は演算器の数以上に増えてしまうからです。

と解説している.なお,直接は関係ないが,「高橋メソッド版(2006/1/13 天文台でのプレゼンテーション)」の pp. 26〜40 に,スパコンがどれくらいお得だったのか (今はどれくらい損な買い物になってしまったのか) についての定量的な (意外に巷には少ない) 話がある.

さて,この法則から敷衍すると,十分な性能とカバー率を持ったネットワークがあり,必要十分な最低限度の能力がある端末があるならば,計算そのものはどこかにある高性能なコンピュータで集中してやってしまったほうが,効率がいいということになる.

グロッシュの法則とほぼ同時期に広まった考えに,タイムシェアリングコンピューティングがある [ウィキペディア:タイムシェアリングシステム] .元々の発想としては,そのようなグローバルな最適化のためのものではないが,同じものを結果として実現するものといえる.

IFIP

IFIP (International Federation for Information Processing) は,1960 年に UNESCO の提唱により組織された連合である (情報処理学会 - 情報処理国際連合[wikipedia:en:International Federation for Information Processing]) .

ここから,確か bit (共立出版) で読んだような気がする話,といういささかこころもとなくて恐縮なのだが,以下のような話を読んだ記憶がある.

UNESCO が提唱していることからも想像できる通り,IFIP の目的のひとつに,世界中の人々にコンピューティングの恩恵を,という思想があり,それを現実的に実現する手段として,コンピューティング需要のある場所すなわち人間の定住する各大陸 (北米,南米,欧州,アフリカ,アジア,オーストラリア) に大型コンピュータを 1 台ずつ建設し,通信回線をゆきわたらせることで,世界の計算需要をまかなおう,という発想があった,というのである.

この話,時間と機会があれば調べたいとは思っているのだが... もし詳細をご存じのかた,おられましたら情報をいただけるとありがたいと思います.

経済性としては,こんにちその根拠 (グロッシュの法則) を失っているわけだが,分散コンピューティングの発想として,あるいは Richard Buckminster Fuller が構想したグリッドとの類似性 (もっとも,各コンピュータをつないで何かしようという発想があったかどうかはわからないのだが) ,等,興味はつきない.

2008 年現在語られる,「世界で数台のコンピュータ」説

世界のウェブサーバの 1 割が Google であるとか,Google の運用しているサーバの台数は,日本で 1 年間に出荷されるサーバの台数より多いなどといわれ,また,CGM サイトなど,限られた数のサイトに情報が集積されてゆく傾向がインターネットにみられる.

このページを作ろうと思い立ったきっかけは技術フェチ日記の2008/11/13 (木)で,丸山先生レクチャーシリーズでの話として言及されているのを見た,世界に“コンピュータ”は5つあれば足りる (おおもとのブログエントリは THE WORLD NEEDS ONLY FIVE COMPUTERS である) なのだけれども,個人的な意見としては,果たして管理をアウトソースしてコストを切るまではいいものの,データの保証があるのならばいいのだけど,とか思ってしまいますが,さて今後どうなることやら.

Gmail への集中という現象は,単に現状のスパム塗れの email からの一時退避じゃないかと思ってるんですけど,どんなもんですかね.SPF ベースで保証のないメイルは受信拒否がデフォルトになればだいぶ変わるんじゃないかとしかしどうして docomo はエンベロープ from じゃなくて From ヘッダを見るなんてオレオレ実装をするんだまったくもう昔からデタラメばかりやりやがってコンチクショウいい加減にしろよ篦棒めNO CARRIER

モデル195

世界最初のスーパコンピュータとされることもあるコンピュータのひとつである System/360 モデル 195 について、「世界にモデル195が10台あればすべての計算をまかなえると言った人がいた」という話があるそうだ → http://cheerhpc.wordpress.com/2007/03/17/50599484/