論理回路図記号に関して調べていたところ、(財)日本規格協会の「標準化教育プログラム」の教材の「技術文書 ―文書作成・マネジメント―」の PDF ( http://www.jsa.or.jp/stdz/edu/pdf/b4/4_10.pdf ) が検索に出てきた。
見てみたところ、どうしてもコメントせざるをえないと思える点がいくつかあり、また経産省委託事業によるものだということなので、遠慮なくコメントさせていただくことにする。
p. 4 の解説「TBT協定」によれば、
一番顕著なのが,JIS C 0301“電気用図記号”が廃止されてJIS C 0617になったことである。この改訂によって,従来のJIS C 0301の図記号が大きく変わったり規格表からなくなったりした。JIS C 0617の基本となったIEC 60617は1980年代後半から1990年代前半にかけて大きな改訂が行なわれているが,この時日本からの意見は全く反映されていない。IEC 60617を審議していた当時の団体の会長が,「日本が反対意見を出すと孤立するので,意見を出してはならない」と公言していたからである。このような考え方は,各国の利害を調整して国際規格を制定していくという考え方と相反するものであり,黙っているということは逆に各国から貢献していないと見なされる。そのつけが,現在日本国内の企業の大幅な図面の書き直しという形のコストアップとして現れている。
とある。国際規格の制定に際し意見を出すことを禁じた人物がいたというのは、全く論外な話で、後半の著者の見解に賛成する。エレクトロニクス、に限らず標準化関係者はこのことを知って、今後同じようなことがないようにしなければならないだろう。
プログラミングのオブジェクト指向と混乱する例もありそう。
p. 21 スイッチとキャパシタはほとんど変わってないからいいとして、抵抗とインダクタはほんとどうにかならんかったのか、と、論理ゲートだけではなくこちらも思う。
p. 23 解説には「IEC 60617の“二値論理素子”図記号が制定された背景には,二値論理素子の集積度が高くなって回路構成が複雑になり,従来のANSI/IEEE図記号だけでは二値論理回路を表現できなくなったことにある。」とあるが、2 引数のブール関数のバリエーションが全 16 個である、という数理的事実が変化するわけもなく、2 入力のゲートについて箱型の表記を導入する理由にはなりえない、と私は考える。実際 16 種類のうち表現が必要なものは全て従来の記法で問題なく書ける。複雑な対象について箱を描く、という点はMILの時点からあるものであり、やはりIEC 60617で初めて解決された問題ではない。
安田寿明先生の「マイ・コンピュータをつかう」p. 148 に国際規格と米国規格のどちらに追随すべきかという話があって、往時の一見解が見られるが、それはともかく、とかく実践的ではあるものの独善のケもある( ← 私の独断と偏見)米国中心に決まるものも多い ANSI や IEEE に盲従するのは問題があるが、さりとて国際規格とは言え、実際的には欧州を中心とする、反、とは言わないまでも対米路線が見えたりすることもないでもない IEC 一辺倒というのもまたどうかと思われ、目を転じれば米国企業が戦略的に ECMA 標準を使ったりするなど混沌としている中、日本は ISO での標準化に対して、さらには「自分たちの規格」JIS においては、きちんと第 3 極として立場を表していかねばいけないと思う。