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池田信夫氏の論評に関して

(このページに関して、取り下げるよう圧力などを掛けて来られた場合、当方の判断でメールを公開するなどの対抗措置を取るかもしれませんのであらかじめご承知おきください)

文責: 岸本 誠

『もし小泉進次郎がフリードマンの「資本主義と自由」を読んだら』という本も出版され、ますます一般への影響力を広めておられる池田信夫氏だが、その論評の手法に関し一例を示しておく。

RIETI (経済産業研究所) で現在も公開されている「いくら失敗しても懲りない『日本発の標準』づくりの愚」という池田氏による論評がある( http://www.rieti.go.jp/jp/special/policy_discussion/09.html )。その中に "1970年代以降の主な「日の丸プロジェクト」" というキャプションが付けられた表がある。以下にキャプチャを引用する。

いくら失敗しても懲りない『日本発の標準』づくりの愚 の表

この表について、何らかの論文にあった表であるとか、白書のような 1 次資料がソースであるとか、そういった情報が見当たらないことに注意してほしい。少なくとも私には見つけられなかった。

さてここに「Divided Sun」という本がある。池田信夫氏の『ネットワーク社会の神話と現実』で参考書籍に挙げられているし、池田氏のウェブサイトの『読んではいけない』という「反書評」のページで、『歴史を偽造する「口先標準」の教祖』と品のないタイトルで坂村氏を dis るネタにもしていた本である。

Divided Sun カバー 筆者蔵書

写真 1: Divided Sun カバー 筆者(岸本)蔵書

以下は同書 8 頁の、表 1「Research Focus: Major Japanese Computer Consortia, 1975 to Present」という表である。しかと見ていただきたい。(2013年6月追記: Google Books で見られるようになっていたのでリンクしておく http://books.google.co.jp/books?id=ijNwDpIhwk4C&pg=PA8

Divided Sun Table 1

写真 2: Divided Sun Table 1

まず、両者の一致点を見てみる。以下の画像で色を付けたのが、両者の一致部分である。

比較 1: 一致部分

続いて、池田氏の表にしかない行は以下の通り「アナログハイビジョン」「キャプテン」「シグマ計画」である。シグマを除いて予算の列が謎の「(NHK)」「(NTT)」といった文字列で埋められているのが、Callon 氏の本の表にはなくて、池田氏の表にはある項目の特色である。

比較 2: 池田氏の表にしかない行

最後に、Callon 氏の表のある項目について指摘しておく。

比較 3: Callon 氏の表のある項目

Callon 氏の論説では、TRON への出資は「100% companies」となっていたはずなのである(一応正確には、コンソーシアムへの出資)。それが、前述の「反書評」では、TRON を、国のカネを無駄遣いさせたプロジェクトとして非難していたのであるが、いったいどういうわけであろうか。

筆者(岸本)の感想としては、「歴史を偽造する口先の教祖」などと他人を攻撃してよく言えたものだ、と思う。

なお余談であるが、『Divided Sun』出版当時に、『通産ジャーナル』に掲載された書評(1996年12月号( http://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I000439893-00 )89頁)の末尾に書かれたところによれば、邦訳が出版予定だったとのことで、もし出版されていれば、パソコン関連を除いてこんにちあまり語られない'70年代後半〜'80年代後半の日本の半導体産業とコンピュータ産業についてもう少し知見が広まっていたのではないかと思われる。さらに余談だが、原書26頁にある、(出典情報は、著者が1992年11月11日におこなった坂村氏に対するインタビューとなっている)坂村氏が語ったこと、など大変興味深く(残念ながら Google Books ではプレビューのため、見ることができない)、邦訳が出版されなかったことが残念である。

また池田氏は、「『日本発の標準』づくりの愚」というタイトルが示すように、日本が標準の制定に対し主体的に関与することに否定的なようだが、国際標準に対し主体的に関与しないことは、必ず将来において国益をそこなう。実際に日本に関して、過去、「国際規格の制定に際し意見を出すことを禁じた人物がいた」という話があることを筆者(岸本)は確認しており( http://metanest.jp/jis_iec.html を参照)その結果として、日本において標準的だった表記法が国際標準にとりいれられなかったばかりに、国内標準( JIS )の現実にそぐわない改定を余儀なくされ、メーカー各社が図面の引き直しをさせられるなどの損害が発生している。

それとは別の件でも、標準化への日本からの出席者は出席確認の返事のためだけに参加していると言われたことがあった、だの、ろくでもない話を他にも聞いており、そういった誤りが繰り返されないことを強く願いたい。